リミックス

泥濘の聖域

2026年1月10日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

親譲りの無鉄砲が祟って、私はこの蒸せ返るような泥の町へと流されてきた。文明の末端が腐敗して滴り落ちたような、この河畔の澱み。そこでは聖書を片手に持った偽善者たちが、泥水をワインと称して飲み干し、子供たちは墓場で死人の影を追いかけている。私の生まれ育った江戸の、あの乾いた風と竹を割ったような論理は、ここでは湿った空気の中に溶解し、ただの「頑迷」という名の汚名へと書き換えられてしまった。

私が赴任したのは、町外れの丘に立つ、白蟻に食い荒らされた古びた学校である。校長は、常に澱んだ水のような笑みを浮かべ、博愛を説きながらも、その実は己の虚栄心を満たすために地域の有力者の機嫌を伺うことに余念がない。名を「赤シャツ」というわけではないが、彼は常に上質な絹のヴェストを纏い、文明の香りを漂わせるために、この未開の地では不釣り合いな高価な葉巻を燻らせていた。

「君、この町の流儀というものを理解したまえ。正義とは、常に多数決の結果であり、真実とは、より美しく飾り立てられた虚偽のことなのだよ」

彼はそう言って、私の目の前に広がる、泥だらけの境界線としての「フェンス」を指差した。それは学校を囲む古い木柵だった。長年の雨風で黒ずみ、見るも無惨に腐りかけている。校長は、この柵を白く塗り替える作業を、罰として一人の生徒に命じていた。生徒の名はフィン、と呼ばれていた。

フィンは、この町で唯一、神の沈黙を理解している少年だった。彼は靴を履かず、川の囁きと森の呼吸を友としていた。大人が説く道徳を「胃もたれのする菓子」と断じ、ただありのままの自然の中に身を置こうとする。その無垢な瞳が、私の中に眠っていた、かつての「私」を呼び覚ます。清廉潔白であることに殉じようとした、あの愚直な精神を。

私はフィンに代わって、その刷毛を手に取った。
「よせ。嘘を白く塗りつぶすのは、大人の仕事だ」
私がそう言うと、フィンは不思議そうな顔で私を見た。
「先生、白く塗れば、腐っていることは忘れられるのかい?」
「忘れられるさ。だが、腐っている事実は変わらない。俺はそれが我慢ならないんだ」

私はその日、一日中、炎天下で柵を塗り続けた。しかし、それは校長の望むような「美化」のためではなかった。私は、石灰の中に、この町を覆うあらゆる虚飾への怒りを混ぜ込んだ。白く、あまりにも白く。それは太陽の光を反射して、見る者の目を焼くほどの、攻撃的な白さだった。

町の住人たちは、私のこの執拗なまでの「誠実さ」に困惑し、やがて恐怖を感じ始めた。彼らにとって、ほどよく汚れ、ほどよく誤魔化した灰色の日常こそが安寧だったのだ。私が柵を白く塗り上げれば塗り上げるほど、隣接する彼らの家の壁が、いかに薄汚れているかが浮き彫りになってしまう。

やがて、事件が起きた。
町を牛耳る判事が、密かに教会の裏で多額の横領を行っているという噂を、私は掴んだ。証拠はフィンの隠れ家である洞窟の中に眠っていた。判事が捨て去った一通の帳簿だ。私はそれを持って、町の広場へと乗り込んだ。

「これを見ろ! 汝の隣人を愛せと説く者が、その隣人の血を啜っている!」

私は叫んだ。私の胸には、これこそが正義であり、この一撃でこの腐った町の空気は一変するはずだという確信があった。江戸の男が持つ、直情径径とした確信である。

しかし、広場を埋め尽くした住人たちの反応は、私の予想を鮮やかに裏切った。彼らは帳簿を見ようともしなかった。それどころか、彼らは私を蔑みの目で見下ろした。

「先生、あなたは台無しにしたんだ」
一人の老人が、掠れた声で言った。
「判事様がくすねた金で、この町の道は舗装され、私たちは飢えずに済んでいる。あなたがそれを暴けば、道は再び泥に返り、私たちは明日から食べるものに困る。あなたは真実を愛しているかもしれないが、私たちは明日を愛しているんだ」

校長が、優雅に葉巻を揺らしながら歩み寄ってきた。彼のヴェストは、今日も非の打ち所がないほど完璧だった。
「言っただろう、君。真実とは、より美しく飾り立てられた虚偽のことだ。君が持ち出したその帳簿は、ただの紙切れだよ。なぜなら、この町の全員が、それを『存在しない』と決めたからだ」

私は愕然とした。私の正義は、ここでは物理法則に逆らう奇行でしかなかった。私が必死に白く塗った柵も、今や彼らにとっては「周囲の景観を乱す、狂った者の所業」として映っていた。

その夜、私は学校の宿舎で荷物をまとめた。
私は敗北したのだ。論理においてではなく、存在そのものにおいて。私の「清廉」は、この泥の町という生態系においては、猛毒でしかなかった。

去り際、私はもう一度だけ、あの白く塗った柵を見た。
驚いたことに、そこにはフィンが立っていた。彼は手に汚れた泥のバケツを持ち、私が精魂込めて白く塗った柵の上に、丁寧に、かつ嬉々として泥を塗りたくっていた。

「何をしている、フィン」
私が問うと、少年は無邪気に笑った。
「先生、こっちの方が落ち着くよ。真っ白なのは、幽霊みたいで怖かったんだ。泥の色は、川の色だ。僕たちの色だ」

私は笑った。腹の底から、込み上げるような、救いようのない失笑が漏れた。
私の追求した純潔は、それを守るべき対象であるはずの少年によって、最も残酷な形で否定されたのだ。しかし、そこには一片の悪意もなかった。ただ、圧倒的なまでの「生の摂理」があった。

私は駅へと向かう馬車に乗り込んだ。
背後で、あの町が泥の中に沈んでいくのが見えた。私はこれから、また別の「文明」へと戻る。そこでも私は、きっと「坊っちゃん」であり続け、空気の読めない異物として、偽善の柵を白く塗り続けるのだろう。

馬車が大きく揺れた。私の手元には、書きかけの辞職願と、フィンがくれた古い釣針が残されていた。
この物語に教訓などない。ただ、泥が泥であることを望み、白が白であることを呪う世界が、どこまでも続いているというだけのことだ。汽笛が鳴り響き、私は煙の中に、あの白すぎる柵が、ゆっくりと、しかし確実に、本来の「汚濁」へと同化していく様を思い描いた。

それは完璧な、そして必然的な、静寂の結末だった。