リミックス

煤けた冠と、道化の血脈

2026年1月7日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

 幸福という言葉の響きを、私は一度として、自らの血肉に馴染む響きとして聞いたことがない。世の人々が、春の陽光や温かなミルクを指してそれと呼ぶものの正体が、私にはどうしても、鋭利な剃刀を仕込んだ砂糖菓子のようにしか思えなかったからである。
 ロンドンの寄宿学校「セイント・ジュード院」の門をくぐった時、私は十歳であった。亡き父が残した莫大な遺産と、インドの陽光をその身に宿したかのような豪奢なドレス。少女たちは私を「ダイヤモンド・プリンセス」と呼び、院長のミス・モーガンは、私の足元に敷かれた絨毯の毛並みまでを気にするほどに媚びへつらった。
 しかし、その実態はどうであったか。
 私は、自分が人間という種族の一員であるという確信を持てずにいた。教室に並ぶ少女たちの、陶磁器のように滑らかで、内側に冷酷な牙を隠し持った笑顔を見るたびに、私は言いようのない恐怖に襲われるのだ。彼女たちは、なぜあのように平然と「友人」を愛し、あるいは憎むことができるのか。その感情の起伏こそが、私にとっては理解を絶する怪物の咆哮にも等しかった。
 恐怖を隠すために、私は「道化」という名の仮面を被ることにした。
 私は惜しみなく施しを与えた。高価なリボン、フランス製の絵本、そして誰にでも等しく向けられる、慈愛に満ちた「お姫様」の微笑。それは優しさなどではなく、私を食い殺そうとする「人間」という怪物たちに対する、必死の供物であった。私が聖女のように振る舞えば振る舞うほど、怪物たちは牙を収め、喉を鳴らして私の手から餌を食む。その様を眺めながら、私は心の奥底で、暗い安堵と、それ以上に深い自己嫌悪に震えていた。

 運命という名の神が、私からその金色の衣を剥ぎ取ったのは、冬の霧がロンドンを包み込んだ、ある火曜日のことだった。
 父の死、そして破産。
 その報せが届いた瞬間、ミス・モーガンの目は、飢えた獣のそれに変わった。昨日まで私の靴を磨くことさえ光栄だと嘯いていた女が、今や私を「煤まみれの厄介者」と呼び、屋根裏の冷たい板の間に放り込んだのである。
 私は、メイドたちの残飯をあさり、ネズミが這い回る暗闇で眠る身となった。
 皮肉なことに、私はそのどん底の生活において、生まれて初めて「呼吸」ができるようになったと感じた。豪華なドレスを脱ぎ捨て、泥にまみれた端切れを纏った時、私はようやく、滑稽なプリンセスの役を降りることができたのだ。空腹と寒さは、実体のない恐怖よりもずっと扱いやすかった。
 だが、世間というものは、私に「ただの不幸な子供」でいることさえ許さなかった。
 私は屋根裏で、一人の少女に出会った。厨房で働く、ベッキーという名の、絶望に慣れきった小柄な娘だ。彼女は私の変わり果てた姿を見て、涙を流した。
「お嬢様、あなたはなんて気高く、美しいのでしょう。こんな酷い目にあっても、あなたは心の中ではまだ、本当のプリンセスなのですわ」
 その言葉は、私の胸を抉った。
 私はベッキーを慰めるために、再び「想像」という名の嘘をつき始めた。
「いい、ベッキー。私たちは今、魔法の呪いでこの姿に変えられているだけなの。本当は、ここには温かな暖炉があって、テーブルには極上のローストビーフが並んでいる。私はプリンセスで、あなたは私の大切な友人。そう思えば、寒さなんて消えてしまうわ」
 私は狂気じみた情熱で、屋根裏の風景を塗り替えて見せた。それはバーネット氏が描くような救済の物語ではなく、私という人間が、現実という怪物から逃避するために築き上げた、脆い砂の城であった。
 私は確信した。私が「人間」ではない証拠は、この想像力にあるのだと。現実を現実として受け入れることができず、常に虚飾の翼で虚空を舞おうとするこの性質。それは高潔さなどではなく、生命に対する根源的な裏切りであった。

 数ヶ月後、奇跡が起きた。
 隣の屋敷に住む、父の旧友が私を見つけ出したのだ。彼は私に、失われた富を上回るほどの遺産を相続させることを約束した。
 再び、私はダイヤモンド・プリンセスの座へと返り咲いた。
 ミス・モーガンは私の前に跪き、許しを請うて泣いた。少女たちは以前にも増して私を崇めた。私は再び、絹のドレスを纏い、最高級の紅茶を啜る身となった。
 だが、その瞬間の私の心に去来したのは、歓喜ではなかった。
 それは、完成された、冷徹なまでの絶望であった。
 私は悟ったのだ。私を地獄から救い出した「慈悲深い隣人」も、私を虐げた「残酷な院長」も、そして私の高潔さを信じて疑わない「哀れなベッキー」も、皆一様に、私の「演技」に踊らされているだけの観客に過ぎないということを。
 そして何より、私自身が。
 屋根裏の飢えの中でさえ、私は「耐え忍ぶプリンセス」という役柄を完璧に演じていたのだ。私は一度として、剥き出しの自分を晒したことがなかった。私の優しさも、私の想像力も、私の悲劇さえも、すべては「人間」という種族に紛れ込むための、高度な偽装工作に過ぎなかった。

 物語の結末は、世間一般に流布しているような、心温まるハッピーエンドである。
 私は慈善事業に私財を投じ、貧しい子供たちの救済に生涯を捧げた。「セイント・ジュードの聖女」として、私の名は歴史に刻まれるだろう。
 だが、私の内側は、あの極寒の屋根裏よりもずっと深く、暗い空虚に支配されている。
 私は今日も、鏡の前で微笑みの角度を確認する。
 私を愛する人々よ。あなたたちが讃えているこの美徳は、すべては恐怖から生まれた欺瞞である。私にはもはや、悲しみさえ感じることができない。私はただ、完璧な「プリンセス」という自動人形として、この世という舞台を徘徊し続けるのだ。
 人間失格。
 その刻印を、私は誰にも見えないように、最も高価なシルクのアンダーウェアの下に隠している。
 幸福とは、自分を騙し通す能力のことだとするならば、私は確かに、世界で最も幸福な「お姫様」に違いないのである。