【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『黒猫』(ポー) × 『一握の砂』(石川啄木)
私の魂を蝕んでいたのは、酒精による忘却でも、貧困による焦燥でもなく、ただ「私」という存在が砂のように指の間から零れ落ちていく、その抗いがたい事実であった。かつて私は言葉の魔術師を自負し、白紙の上に永遠を刻むことを夢見た。しかし、現実は冷酷な彫刻家であり、私の自尊心を少しずつ削り取っては、無価値な屑として床に散らしていった。その屑を、私は涙を流しながら拾い集めることすらできなかった。ただ、じっと見つめるだけだ。東海の小島の磯の、白砂に滴る血のような、救いのない静寂の中で。
私の家には、一匹の黒猫がいた。その漆黒の毛並みは、夜の深淵を切り取って縫い合わせたかのように濃密で、ただ一点、胸元にだけは、あたかも誰かが一握りの砂を投げつけたような、不吉な白斑が散っていた。私はこの獣を愛していた。あるいは、愛そうと努めていた。なぜなら、その冷ややかな瞳の中に、私はかつての美しかったはずの自己の残滓を見ていたからだ。しかし、私の精神が卑屈な錆に覆われるにつれ、猫の沈黙は私への糾弾へと変質した。
ある夜、私は酒場での屈辱を抱えて帰宅した。私の詩才を嘲笑い、私の窮状を指差して笑った俗物どもの顔が、網膜の裏で蠢いていた。出迎えた猫が、私の足元で微かな声を上げた。その瞬間、私の内に潜んでいた「天邪鬼」――理由なき破壊衝動が、黒い翼を広げて飛び立った。私は抵抗する猫を捕らえ、その右目を、鋭利な小刀で抉り出した。
溢れ出したのは鮮血ではなく、乾いた砂であった。
私は愕然とした。抉り取られた眼窩からは、さらさらと音を立てて、無数の砂粒が零れ落ちる。それは私の人生を構成していた、取るに足りない時間そのもののように見えた。私はその砂を掌に受け、じっと眺めた。なぜ、泣けぬのか。なぜ、この砂を愛おしく思えぬのか。私は狂気という名の壁の向こう側へ、一歩足を踏み入れたことを自覚した。
やがて、猫の傷は癒えた。しかし、失われた眼球の代わりに、その穴からは絶えず砂が溢れ続けるようになった。猫が歩くたび、私の家の床は薄い砂の層で覆われていった。それはまるで、私の生活が、刻一刻と荒野に飲み込まれていく予兆のようであった。私はその砂を踏みしめるたび、自らの過去が踏み躙られるような痛みを感じた。
憎悪は、愛よりも深く、そして執拗に根を張る。私はある日、猫を絞殺しようと決意し、地下室へと誘い込んだ。しかし、それを遮ったのは私の妻であった。彼女は私の絶望を理解しようと努め、その慈愛によって私を繋ぎ止めようとしていた。だが、その慈愛こそが、誇り高き敗北者である私にとっては最大の毒であった。私は斧を振り上げた。狙ったのは猫ではなかった。私の弱さを鏡のように映し出す、妻の額であった。
一撃で、彼女は事切れた。私は冷徹な論理に基づき、死体を隠蔽することにした。地下室の壁は、かつての住人が修復した跡があり、レンガの一部を外すことが容易だった。私は妻の亡骸をその隙間に押し込み、丁寧に元の通りに塞いだ。完璧な仕事だった。どこにも不自然な膨らみはなく、漆喰の色も周囲と見事に調和している。
ただ一つの懸念は、あの忌まわしい猫が姿を消したことだった。だが、それも幸いと思えた。私の罪を告発する生き証人は、もうどこにもいない。
数日が過ぎた。警察が家宅捜索に訪れた。私は余裕を持って彼らを迎え入れ、家中を案内した。地下室に至っても、私の心臓は一定のリズムを刻んでいた。私は自身の潔白を証明したいという奇妙な誘惑に駆られ、妻を埋めたまさにその壁を、杖の先で軽く叩いた。
「この壁は、実に堅固にできていましてね」
その言葉が私の唇を離れた瞬間、壁の奥から、あり得ざる音が響いた。
それは鳴き声ではなかった。あるいは、人の叫びでもなかった。
「……さら、さら、さら……」
それは、膨大な量の砂が、狭い隙間を流れ落ちる音であった。
驚愕に目を見開く警察官たちの前で、私がつい先ほど叩いた壁が、内側からの圧力に耐えかねて崩落した。レンガの間から噴き出したのは、かつてないほどの量の、黒く光る砂礫であった。
砂の雪崩が止まったとき、そこには直立した妻の死体があった。彼女の腐敗し始めた頭部の上には、あの黒猫が鎮座していた。猫はただ一つの眼を私に向け、嘲笑うかのように喉を鳴らしていた。
だが、私の目を釘付けにしたのは、猫の姿ではなかった。崩れた壁の中から溢れ出した砂――それは、私が一生をかけて書き綴り、誰にも読まれることなく捨て去った、数多の原稿の破片であった。私が魂を削って言葉を紡いだ紙の礫が、月日を経て砂へと還り、妻の亡骸を、そして私の罪を、永遠の孤独の中に封じ込めていたのだ。
私はその場に膝をつき、溢れ出した「私の言葉」であった砂の中に、両手を深く差し入れた。一握りの砂。それは重く、冷たく、そして何よりも私自身の体温を奪い去っていった。
警察官たちが私の腕を掴んだとき、私はただ、その砂を頬に摺り寄せ、赤ん坊のように慟哭した。私の言葉は、ついに誰の心にも届くことはなかったが、こうして私の破滅を完成させるための最後の一片として、完璧な論理を持って帰還したのである。
眼窩から零れ落ちる砂は、もう止まることはなかった。私は自らが作り上げた砂地獄の中で、永遠に、自らの名前を書き続けるだろう。誰にも読まれぬ、音のない言葉で。