リミックス

細雪の葬列

2026年1月7日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

 その冬、蘆屋の屋敷を包み込んでいたのは、雪というよりは、微細な沈黙の粒子であった。四人の姉妹が囲む火鉢からは、灰に埋もれた炭が微かな音を立てて爆ぜ、そのたびに長姉・鶴子の持つ刺繍針が、冷徹なまでの正確さで絹布を刺し貫いた。彼女たちの生活は、没落という名の緩やかな坂道を、一歩ずつ、しかし限りなく優雅に下っていく一種の儀式であった。父が遺した莫大な借財と、それ以上に重苦しい「名家」という名の呪縛。かつて新大陸の道徳に裏打ちされた素朴な清貧を良しとした魂は、ここでは湿り気を帯びた谷崎的な耽美の沼に沈み込み、美しく腐敗していく。

 次女の佐知子は、妹・雪子の縁談の差配に明け暮れることで、自らの内側に空いた空洞を埋めていた。雪子は、オルコットが描いたあの儚きベスのように、あるいは早春の雪解け水のように、触れれば消えてしまいそうな静謐さを纏っている。しかし、その静寂は慈愛ではなく、拒絶から成り立っていた。彼女の元へ届けられる見合い写真は、どれもこれもが時代の移ろいを象徴するような、新興階級の男たちの無骨な顔ぶれであった。佐知子はそれらを眺めるたび、雪子の白すぎる肌に刻まれた、目に見えない「家」という名の刻印を幻視するのであった。

「お姉様、また雪が降り始めましたわ」

 末妹の妙子が、窓外の闇を凝視しながら呟いた。彼女はこの家の中で唯一、土の匂いのする情熱を持ち合わせていた。彼女は人形を創る。しかしそれは子供の玩具ではなく、生きている人間の皮膚の質感を模した、おぞましいほどに精緻な、意志を持たない肉体の模造品であった。妙子は、オルコットの末娘エイミーがパリで芸術を学んだように、自らの野心を洗練させていたが、その矛先は上昇志向ではなく、この停滞した家系という檻をいかに美しく破壊するかという一点に注がれていた。

 物語の核心は、三女・雪子の病であった。ベスが緋紅熱によってその清冽な魂を天に返したように、雪子もまた、原因不明の微熱と貧血に蝕まれていた。しかし、それは肉体の病というよりは、あまりにも長く「純潔な娘」という役割を演じ続けたことによる、精神の摩耗であった。彼女が咳き込むたびに、白い懐紙には真紅の血が点り、それが雪の上に落ちた椿の花びらのように、残酷なまでの色彩を放った。佐知子はその血を拭いながら、これこそがわが家の最後の一滴の誇りなのだと、陶酔に似た絶望を感じるのである。

 鶴子は、本家の威信を守るため、雪子を無理にでも有力な実業家のもとへ嫁がせようと画策した。その男は、教養こそ欠けていたが、圧倒的な「富」という生命力を持っていた。それは、かつてジョーが愛したベーア教授のような精神の豊かさとは無縁の、ただただ家を存続させるための暴力的なまでの実利であった。

「雪子が死ぬのが先か、あの家が私たちを飲み込むのが先か」

 自称作家のジョーならぬ、観察者としての佐知子は、深夜の書斎で筆を走らせた。彼女たちの生活は、巡礼の旅ではなかった。それは、出口のない回廊を、最も美しい衣装を纏って歩き続ける行列に過ぎない。オルコットが描いた「巡礼」という目的意識は、ここでは「形式の維持」という空虚な円環に置き換えられていた。

 ある夜、妙子が失踪した。彼女が残した工房には、雪子に瓜二つの、等身大の人形が鎮座していた。その人形の胸元には、姉妹たちの共通の記憶である高価な縮緬の端切れが、心臓を象るように縫い付けられていた。妙子は、泥臭い現実を生きる写真師と駆け落ちしたのである。それは、この家における唯一の「生の肯定」であり、同時に、姉たちに対する最も冷酷な裏切りであった。

 しかし、鶴子と佐知子は、その不祥事を表沙汰にすることを何よりも恐れた。彼女たちは、妙子が最初から存在しなかったかのように振る舞い、代わりにあの不気味な人形を、病床の雪子の身代わりとして奥の間に据えた。見合いの相手には、「妹は極度の人見知りで、御簾越しでなければお目にかかれない」という古風な嘘を吐いた。

 やがて、雪子の微熱は引き、彼女は完全に沈黙した。彼女が死んだのか、あるいは単に精神が肉体を見捨てたのか、姉たちにも判別がつかなかった。ただ、彼女の肌は人形のそれよりも白く、冷たくなり、呼吸の音さえも冬の風にかき消されて聞こえなくなった。

 結末の冬、ついに雪子の「縁談」が整った。相手は、彼女の美貌と家柄だけを求めている、没落した貴族の末裔であった。婚礼の朝、佐知子は雪子の体に、最高級の白無垢を纏わせた。雪子の瞳は虚空を見つめ、指先一つ動かさない。しかし、その姿はこの世のものとは思えぬほどに神々しく、完璧な「若草の聖女」の完成を告げていた。

 婚礼の行列が、雪の積もる街へとしめやかに出発した。近隣の人々は、その美しさに息を呑み、古き良き時代の終焉を惜しんだ。誰も、その白無垢の下に、もはや魂はおろか、温かな血の一滴すら流れていないことに気づかなかった。

 鶴子と佐知子は、空っぽになった屋敷の縁側に座り、遠ざかる行列を見送っていた。
「これで、わが家は守られましたね」と鶴子が満足げに微笑む。
 佐知子はその時、自らの手元にある日記を火鉢に投げ入れた。燃え盛る紙片を見つめながら、彼女は理解した。雪子を嫁がせたのではない。彼女たちは、家という名の神殿に捧げるための、最も美しい肉体の剥製を完成させ、それを外部へ輸出したのだ。

 オルコットの少女たちが「大人の女性」へと成長する過程で得たはずの自律性は、ここでは「完璧な器」への退行へと反転していた。自分たちが守り抜いたと思っていたものは、実は自分たち自身を閉じ込め、窒息させるための、最も緻密に織り上げられた死装束であった。

 雪が激しさを増し、すべてを白く塗り潰していく。遠くで婚礼の鐘の音が聞こえたが、それは姉妹たちの耳には、冷徹な必然を告げる弔鐘のように響いた。皮肉にも、最も家を愛し、家のために己を殺した雪子だけが、永遠に色褪せることのない「処女」として、歴史の闇にその美を刻印することに成功したのである。生きた人間としての息遣いを、一欠片も残さないことによって。